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橘の記

橘の記

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今は盛りの、春。

というのは、恥ずかしながら、身内の話だ。

季節は確かに春と分類されるかもしれないが、まだまだ肌寒く、独り寝は辛い。

だが私はこの時節が嫌いではない。

しんと底冷えするような寒さではあるが、おかげで身も心も引き締まる。

夏場であれば、妖しげな者達が屯し息を潜めている暗がりにも、流石に愚かしい色めいた目的で彷徨く者など存在しない。

もしも闇の中で動く者があるとすれば、それ即ち、恐れ多くも主上が住まうこの宮城に徒なす者に違いないのだから、迷い無く己の剣と誠を以て務めを果たせば良い。

主上からご信頼頂く近衛の武官であり、また東宮様と中宮様を盛り立てお守りする右大臣家に生まれた者として当然のこと。

己の義務と責任に思い馳せれば、いささか単調退屈となりがちな宿直にも定時の夜廻りにも、自然、身が入るというものだ。

ふらふらと物陰から現れた人影に身構えかけたものの、聞き覚えのある香に、私は直ぐに太刀の柄にかけた手を外した。

「あ、高彬~こんなところにいたんだ♪」

へへへっ♪見つけちゃった♪などと言いながら、覚束ない足取りで近付いてきたのは幼馴染みであり又、義弟でもある内大臣家の融君、だ。どうやら少々酔っているらしい。

融は目立った出世頭という訳ではないものの、家柄出自だけでなく人当たりも愛嬌も良く、宴席に誘われることが多い。

その笙の腕前だけでなく、人と争わぬ朗らかな人柄を頼まれてのことだろう。

酔っても悪酔いすることはなく、寧ろ笑顔が更に零れるように無邪気になるのが良い、などと主上も仰せであられた。

先の除目で官位は上がらなかったものの、職位は上がり、舅である内大臣様も姑である北の方様もとても喜んでおられた。

が、肝心の融がどのように感じているのかはー私には分かるような、分からないような。

筒井筒の仲ではあっても、心の奥底まで解り合える、などという空事を私は全く信じていない。

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