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紅花【中】

紅花【中】

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(あたしとした事が、とんだ失態だ)

己はあまりにも恋女房に弱過ぎるのだということは誰かにー例えば佐助などにー言われなくても充分自覚している。

結局重要な身体の変調についてお嬢さんに明確に説明出来ていないままだったのだと気付いたのは、店の帳場に戻って奉公人達に囲まれる形になった際だった。

奉公人、特に実直な番頭の不安気な様子を見ると、それらを振り切ってトンボ返りという訳にはいかないし、又戻ったところでお嬢さんを怒らせるだけだと分かっていたので、そのまま仕事に従事したが。

(さてどうやって説明したものか)

仕事の合間に斜め読みした幾つかの書物や処方箋を脳裏で思い返してみる。

幼い頃から守り育ててきた主人の、か弱く病がちな身体を僅かでも損なうような羽目には絶対に陥りたくなかった。

ーあるいは詮索好き、お喋り好きではあるものの、主人思いという面では信頼出来る女中頭のおくまが、いちの乳母でもあるのだから母親代わりの面目躍如を発揮して、いちに手ほどきと共に色々と教え込んでいるかもしれない。

自分達の夫婦生活に立ち入られるのは気に喰わないが、今回ばかりはそうしてもらえていれば助かるというのが正直なところだ。

「ただいま戻りました」

普段通り、静かに滑らすように障子戸を開けて室内に入り、また結界と共に障子戸をぴっちりと閉めてから、仁吉は二枚に重ねた座布団に寄りかかるようにしてまた別の座布団の上に座っているいちに深く頭を下げた。

「お帰りなさい。お疲れ様」

いつも通りにこやかに返されるのに、取り敢えずはほっと安堵する。

「ご気分の方は如何ですか、お嬢さん。ご不快は収まりましたでしょうか」

「ん。大丈夫だよ。おくまが来てくれて色々支度してくれたり、準備してくれたんだ。……だから、大丈夫」

穏やかに応えながら普段よりもやはり顔色が悪いお嬢さんの様子を横目で窺った後、女中が運んでおいたらしい膳を見つけて夕餉の支度に取りかかる。

何気なく覗き込み、赤飯が盛ってあるのを確かめて、溜息を押し殺した。

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