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紅花【上】

紅花【上】

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騒々しく小鬼達がーといっても店にいる他のただびとである奉公人達がその姿を目にすることはないー仁吉の元に競うように駆けて来たのは、仁吉が丁度、番頭と共に帳場の奥で勘定用の帳簿と卸の帳簿の突き合わせを終わらせた所であった。

仁吉は薬種問屋長崎屋の主として、番頭に普段通り優しく穏やかな微笑と共に労いの言葉をかけ、さり気なく何気なく床の上に手を滑らせて、小鬼を一匹摘み上げ、自らの肩へと載せた。

<どうした>

声を出さずに詰問すると、強面ではあるものの臆病者の小鬼はぷるぷると身を震わせながらーしかしこれは長崎屋への忠信を叩き込まれた長崎屋に棲まう妖としての本分を発揮して、言い立てる。

「白沢様っお嬢さんが大変ですっお嬢さんが大変なんです!」

<……どう大変なんだ>

仁吉はすぐに駆けつけたい気持ちを抑えて問うた。

今迄も、小鬼達の「大変」には充分以上に振り回されていたので、幾分慎重な心構えを持つようになってきていたのだ。

しかし別の小鬼達もわらわらとー普段は仁吉ら大妖を怖れてあまり馴れ馴れしくは近寄って来ないのだがー仁吉の膝に取り付いてくる。

「お嬢さんが怪我をしてます!」

「お嬢さんが血を流してます、いっぱい、いっぱい、血が、お嬢さんの血が、いっぱいっっ」

「早くお助け下さい、白沢様!お嬢さんが死んじゃいますよっっっ」

次の瞬間、既に仁吉は行動を起こしていた。

「あれ?旦那様?旦那様は何処へいらっしゃった?」

珍しくおろおろとしたような番頭の声や、慌ただしくなった、自らが後にしてきた店の空気など完全に無視である。

元々お嬢さんあっての長崎屋、そして薬種長崎屋の主人としてのーいや、人としての化生の身である。

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